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広島高等裁判所 昭和43年(行コ)16号 判決 1969年12月16日

控訴人(被告) 広島市長

被控訴人(原告) キャタピラー三菱株式会社

主文

原判決第二項を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、次の点を付加する外、原判決事実欄摘示のとおりであるからこれを引用する。

一、控訴代理人の主張

1、償却資産に関する固定資産税の抽象的納税義務者はその所有者であり、その課税台張への登録、縦覧を経た後なされる課税処分により具体的納税義務が発生する。

右登録に関しては納税義務者からの申告がなされるが、これは課税権者の参考資料としての意味を有するだけであり、申告が所有権の帰属につき真実と反する場合は、申告者が具体的納税義務者となるものではない。

2、課税権者は、申告者が真実の所有者でないことを発見した場合は、既に賦課処分をしているときはこれを取り消し、地方税法四一七条一項により課税台帳を修正した上、真実の所有者に対して課税処分をすべきものであり、これが法全体の体系に合致する。

右条項には「所有者」という字句はないが、「固定資産の価格等の登録がなされていないこと」とある規定の趣旨は、課税台帳に固定資産の所有者のものであるとして課税物件の価格等の登録がなされていない場合を指すものであり、所有者の修正も含まれる。

二、被控訴代理人の主張

1、償却資産に対する固定資産税に関しては、課税権者がその所有者を捕捉することが著しく困難であることから、地方税法は所有者に申告義務を課したもので、申告は納税義務者の確定につき絶対的法律要件である。

2、課税台帳に償却資産の所有者として登録した以上、その者の納税義務者としての地位は確定する。

地方税法四一七条一項は課税標準に関する課税台帳の修正を規定したものであり、これにより所有者を変更することは許されない。かように解しても、申告が自発的になされている本件においては、申告者に対する課税が不公平なものとはいえない。

理由

一、被控訴人と訴外藤江開発有限会社との間の本件ブルトーザーおよびトラクター・シヨベルの売買、訴外会社の右機械についての取扱および償却資産の所有者としての控訴人に対する申告、控訴人の訴外会社に対する右機械についての固定資産税の賦課処分、訴外会社の右税金の滞納、控訴人の償却資産課税台帳の訂正に基づく被控訴人に対する課税処分等の経緯については当事者間に争いがない。

二、そこで、償却資産に対する固定資産税の納税義務者につき、償却資産課税台帳の記載との関連において、検討することとする。

地方税法によれば、固定資産税は固定資産の所有者に課する(同法三四三条一項)こととし、右所有者とは償却資産については償却資産課税台帳に所有者として登録されている者をいう(同条三項)とともに、固定資産税の納税義務がある償却資産の所有者は、毎年一月一日現在における当該償却資産について、償却資産課税台帳の登録に必要な事項(同法三八一条五項によれば償却資産の所有者の住所、氏名又は名称等が右台帳の登録事項となつている。)を一月三一日までに当該償却資産の所在地の市町村長に申告しなければならない(同法三八三条一項)ことになつている。

以上の規定から考察するとき、地方税法は償却資産の所有者が同法に従つて申告するものとし、償却資産課税台帳に登録された所有者が真実の所有者に合致することを前提として、課税台帳に所有者として登録された者を固定資産税の納税義務者と規定したものと解するのが相当である。

従つて地方税法に規定はないけれども、償却資産の所有者が同法の要求している申告をしていないことが判明した場合には、市町村長は職権で所要事項を償却資産課税台帳に登録し、申告又は職権による登録事項が真実に反することが判明した場合にも、市町村長は職権でその訂正ができるものというべきであり、(地方税法三八五条および三八六条に虚偽申告に関する罰則、不申告に関する行政罰の規定が存在することもその根拠となろう。控訴人は同法四一七条により償却資産の所有者に関する登録を訂正することができる旨主張するが、同条はその内容および規定の位置から固定資産の価格等〔同法三八九条一項により所有者は含まれない〕についての登録の修正を定めたものであるから、採用しがたい。)、右登録に従つて真実の所有者に課税することとなる。(もつとも、自ら償却資産の所有者として申告した者が、自己に対する課税処分を、所有者でないとして、争うことができるか否かは別の問題である。)

被控訴人は、固定資産税の賦課期日(地方税法三五九条により当該年度の初日の属する年の一月一日と規定されている。)における償却資産課税台帳に所有者と登録されている者をその納税義務者とすべきものである、と主張するが、失当といわねばならない。

三、次に償却資産について割賦販売が行われ、代金完済まで売主に所有権が留保されている場合、固定資産税納付義務者である所有者は売買契約当事者のいずれであるか、を考察する。

右の場合売主が代金完済まで所有権を留保する理由は主として代金債権の担保にあると認められ、売買契約当事者間では売主の所有は形式的なものに過ぎないとも解する余地があるが、第三者に対する関係では売主が所有権者としての地位を保持していることはいうまでもないので、この場合につき特段の規定のない地方税法においては、売主が固定資産税の納付義務者である所有者に該当するものというべきである。

被控訴人は、この点に関して、償却資産に関する固定資産税は当該償却資産により収益をする者、これを償却資産とすることができる者に対して賦課されるべきである、と主張し、そうでないと二重に課税されることとなる旨非難するが、仮に固定資産税がその収益を税源としているとしても、その納税義務を所有権の帰属と一致させることがこれと矛盾するものとはいえず、この場合について特段の規定のない地方税法において実質課税の名の下に所有者以外の者を固定資産税の納税義務者とすることは許されないものであり、また被控訴人のいう二重課税は被控訴人が他の債権担保の方法を採らないで所有権留保の形式によつたことから生ずるもので、これによる不利益があるとしても止むを得ないことである。

更に、被控訴人は、被控訴人に対する本件賦課処分が建設機械製造販売業界における慣習に反し、日本の経済秩序を破壊するものであり、違法である、と主張するが、税法の規定に反する慣習が仮にあるとしても容認されるべきものではないから、本件のような売買において売買当事者間において買主が固定資産を納付している慣行があるとすれば右当事者間の内部問題に止まるべきである。

四、そうすると、訴外会社が本件償却資産の所有者として申告したことによる償却資産課税台帳について、控訴人がその記載を真実の所有者である被控訴人に訂正した上、関係法規に基づいて被控訴人に対してした本件課税処分は結局適法であり、被控訴人の本訴請求は理由がない。

五、よつて、これと判断を異にする原判決第二項を取り消したうえ、被控訴人の請求を棄却することとし、民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 辻川利正 村岡二郎 丸山明)

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